会計AI人材を育てる / 公開教材

ChatGPT・Claude・Gemini の使い方。基本から応用まで、管理部の仕事で。

三つとも、根っこは同じ道具です。文章や資料を渡すと、文章が返ってくる。違いが出るのは、どこまで任せてよいかを知っているかです。当社の公認会計士が実務で使っている順に、基本から応用まで並べました。

2026年9月時点の内容です。各社の機能名・提供範囲・料金は頻繁に変わるため、本文は変わりにくい「型」を中心に書き、個別の機能名は目安として示します。料金は各社の公式サイトでご確認ください。

一 基本

生成AIの本体は、検索でも計算機でもありません。

大量の文章から「次に来そうな言葉」を学んだ道具です。だから文章の下書きは得意で、事実の正確さと数値の計算は保証されません。製品によってはWeb検索や計算の機能が後から付いていますが、「今回それが使われたか」は毎回確かめが要ります。この一点を押さえると、使い方の多くが決まります。

得意

文章を「つくる・直す・縮める」

  • 報告書・メール・規程の下書き
  • 長い資料の要約と論点出し
  • 言い換え・翻訳・表の整形
  • Excel の関数やマクロの相談
苦手

「正確であること」そのもの

  • 最新の改正・直近の出来事(Web検索を併用しない限り)
  • 桁の多い計算・単位の換算
  • 条文番号・出典・固有名詞の正確さ
  • 「知らない」と言うこと(もっともらしく埋めます)
向き合い方

下書き係として使う

  • 最終判断と責任は人が持つ
  • 出典は自分で開く。数字は自分で検算する
  • 会社の秘密は入れない(三の節)
  • うまくいった頼み方は残して使い回す

最初の一週間で、三つだけ

1日目

会議メモを議事要旨に

手元のメモを貼って「決定事項・宿題・担当・期限の4項目で整理して」。要旨の形式が身につくと、以後の依頼が楽になります。

3日目

社外向けメールの下書き

「相手・目的・伝えたい3点・避けたい表現」を渡して下書きさせ、自分の言葉に直して送る。社名と金額は伏せ字で渡します。

5日目

わからない用語を聞く

「経理2年目に説明するつもりで、具体例を一つ付けて」。理解の入口に使い、正確な定義は基準や条文の原文で確かめます。

三つに共通する機能(名称は各社で異なり、契約の種類や管理者の設定により使えないものがあります):チャットでのやり取り/PDF・Excel・画像の添付/Web検索を併用した回答/長い資料を一度に読む/自分専用の指示や資料をあらかじめ保存しておく仕組み。

二 三つの違い

同じ道具ですが、得意が少しずつ違います。

性能の優劣は数か月で入れ替わります。ここでは順位ではなく、周りの道具との相性と、当社が実務で感じている傾向だけを書きます。傾向は測定した結果ではなく、当社の使用経験です。

ChatGPT(OpenAI)

周りに使っている人を見つけやすい

  • 機能の幅が広い(音声・画像の生成・過去の会話の記憶など)
  • 使い方の解説や頼み方の例が見つけやすい
  • 用途ごとに設定を保存した「自分専用の版」を作れる
向く場面:最初の一本。幅広い雑務。画像や図の作成。
Claude(Anthropic)

長い文書を、丁寧に読んで書く

  • 長い資料の読み込みと、指示の細部に従った文章作成に向くと感じています
  • 報告書・規程・コードなど「形のある成果物」の下書きに向く
  • 資料と指示をまとめて保存する仕組み(プロジェクト。契約により利用可否が異なります)がある
向く場面:規程・報告書のドラフト。長い契約書の要点。手順書を仕込んだ反復作業。
当社の成果物の下書きは主にこの系統で作り、別系統で検証しています。
Gemini(Google)

Gmail・ドライブと同じ画面で使える

  • Google Workspace の中で、メール・資料・スプレッドシートを扱える(対応する契約と管理者の許可が要ります)
  • 渡した資料だけを根拠に答える道具(NotebookLM)が同じ会社から出ている
  • Google 検索との距離が近い
向く場面:Google Workspace を使う会社の日常業務。社内資料集からの質問応答。

どれか一つに決める必要はありません。会社で使うなら、まず一つを法人契約で入れ、もう一つを「検証用」に持つのが当社の勧めです。同じ問いを二つに投げて答えが割れたところが、人が確かめるべき場所です。答えが揃っても正しいとは限らないので、最後は原文で確かめます。

三 会社で使う前に

入れる前に、入れないものを決めます。

使い方より先に決めるのは、この一つです。決めておけば、社員は安心して使え、管理部は説明できます。

外のAIに入れないもの

  • 社名と結びつく未公表の数値(決算前の数字、予算、資金繰り)
  • 従業員・顧客・取引先の個人情報
  • 契約書の原本、相手方から秘密保持を約束して受け取った資料(秘密保持契約は、匿名化しても外部への入力を禁じている場合があります)
  • 監査人・顧問から受け取った未公表の資料(当社の関与先の方は、とくにご注意ください)

社名を「A社」に、金額を桁だけ残して丸める。この二つで、管理部の仕事の多くは回ります。ただし日付・役職・取引条件の組み合わせで会社が特定できることがあるので、渡す前に「これで誰の話か分かるか」を一度見ます。

使う形は四つあり、契約・データの扱い・管理者ができることが違います:個人向けアプリ/法人向けの共有環境/API(自社の仕組みから呼ぶ)/ローカル(会社の中で動かす)。このページの一〜五は主に前二つの話です。

設定

学習に使われない設定を確かめる

個人向けの契約では、既定で入力内容がAIの学習に使われる場合があります(設定で止められることもあります)。法人向けの契約では使われないのが一般的ですが、学習・保存期間・人による閲覧は別の論点です。規約と設定画面で確かめ、確かめた日付を残します。

契約

アカウントは会社で持つ

私物のアカウントで業務をしないこと。会社で契約すれば、退職時に止められ、利用状況を把握できます。会話の本文まで確認できるかは契約と設定によります。

責任

出力の責任は人が持つ

「AIが書いた」は理由になりません。誰が、何を根拠に、どこを直して使ったかを残す。監査や内部統制の点検で、まず問われるのはここです。

各社の契約条件・データの取り扱いは規約が正本です。ここに書いた原則は目安であり、導入時には現物の規約を一緒に読みます。

四 実務で使う

頼み方は、五つを揃えるだけ。

うまくいかない原因の多くは、頼み方に穴があることです。少し込み入った依頼では、役割・目的・材料・形式・制約の五つを揃えて書く。慣れると、これが「AIへの業務指示書」になります。

頼み方の例:月次報告のコメント下書き
【役割】上場準備企業の経理責任者の補助者として答えてください。
【目的】取締役会向けの月次報告に載せる、売上と粗利の増減コメントの下書き。
【材料】下の表(社名は伏せ、金額は百万円単位に丸めています)。
【形式】各項目 2文以内。数値は表の値だけを使い、表にない数値は書かない。
【制約】原因の断定はしない。「〜と考えられる」の形で、確認が要る点は末尾に列挙する。
(ここに表を貼る)

管理部でよく使う六つの場面

会議

議事録を議事要旨に

録音の文字起こし(参加者の承諾を得たもの。氏名は役職や記号に置き換える)を貼り、決定事項・宿題・担当・期限で整理。
検証:決定事項は必ず元の発言に戻って確かめる。

規程

規程・マニュアルの改定案

現行の条文と変更したい点を渡し、改定案と新旧対照表を作らせる。
検証:他の規程との矛盾は人が読む。

契約

英文契約の要点と疑問点

秘密保持に触れない範囲で、必要な条項だけを渡し、要約と自社に不利になりうる箇所を列挙させる。
検証:判断は必ず弁護士へ。AIは論点出しまで。

表計算

Excel の関数・整形

「この列からこの結果を出したい」と例を渡す。関数の意味も説明させる。
検証:検算用の別シートで、手計算と一致を見る。

会計基準

基準の当たりをつける

「この取引に関係しそうな基準と論点を挙げて」。入口として使う。
検証:条番号と結論は必ず原文(会計基準は企業会計基準委員会、法令は e-Gov)で読む。

説明

取引先・社内への説明文

事実関係を箇条書きで渡し、相手に合わせた文面にする。
検証:事実の追加や脚色が混ざっていないかを一文ずつ見る。

検証の作法、四つ

出典

出典を出させて、自分で開く

出典が出ない、開けない、書いてあることと違う。この三つはよく起きます。

数字

数字は自分で再計算する

合計・比率・単位換算は、AIの答えを見る前に自分で出しておくのが早道です。

反証

別のAIに誤りを探させる

「この文章の誤りと根拠の弱い箇所を挙げて」と、作ったのと違う系統に渡します。同じ誤りを共有することもあるので、最後は原文です。

原文

基準・法令は原文で読む

要約は入口。適用の可否と条番号は原文で確かめてから、文書に書きます。

同じ現物で、AIがどう下書きし、会計士がどこを直したかは、連載 AI×会計 で公開しています。

五 応用

一回の会話から、仕組みへ。

基本が身についたら、毎回同じことを頼まなくて済む形にします。ここから先が、会社としての「AIの使い方」です。

仕込む

自分専用の指示を保存する

社内の用語集・書式・禁止事項を一度書いて保存しておく(プロジェクト、カスタム指示、Gem など。名称は各社で異なります)。以後は「今月分」と言うだけで、指示のばらつきが減ります。レビューは毎回要ります。

資料集

資料を丸ごと渡して答えさせる

規程集・過去の議事録・基準集を入れ、「資料にないことは答えない」と指示する。読み落としや取り違えはあるので、根拠の箇所を必ず示させ、そこを開いて確かめます。

相互レビュー

二つの系統で、互いに検証する

当社の作法です。作成に使ったモデル以外の系統に「誤りと根拠の弱い箇所を探せ」と渡し、指摘の採否は人が原文に当たって決めます。

形式

表やデータの形で返させる

「列名はこの順で、Excel に貼れる形で」。次の工程(集計・チェック)に渡せる形にしておくと、人の転記が減ります。取り込む前に件数と合計を検算します。

エージェント

操作まで任せる。ただし狭く

ブラウザやファイルを自分で操作して作業を進める機能を、各社が提供し始めています(契約により使えない場合があります)。任せる範囲を一つの作業に絞り、操作の記録を人が見ます。送信・支払・削除は任せません。

社内

外に出せない資料は、会社の中で

三の節で「入れない」と決めた資料にもAIを使いたいなら、会社の中で動くAI(ローカルLLM)を置く選択肢があります。閉じた法人環境やAPI経由の専用構成と並べて、資料の重さに合わせて選びます。

頼み方の例:相互レビュー(作ったのと別の系統に渡す)
【役割】公認会計士のレビュアーとして、下の文書を批判的に読んでください。
【目的】文書を良くすることではなく、誤りを見つけること。
【材料】下の文書(別のAIが下書きしたものです)。
【形式】指摘ごとに「箇所/何が違うか/根拠(基準名・条番号)/確からしさ(高・中・低)」の表。
【制約】褒めない。根拠が示せない指摘は「低」と明記する。文書の書き直しはしない。
(ここに文書を貼る)
六 会計士から見た限界

もっともらしい誤りを、見つけられますか。

当社が成果物を作る中で、実際に起きた誤りの型です。どれも文章としては自然で、読み流すと通ってしまいます。

条番号

基準の項番を間違える

基準名は合っているのに、項番や適用指針の番号がずれる。結論の根拠として書く前に、原文で開きます。

桁と単位

単位換算と比率の名前を落とす

千円と百万円の取り違え、粗利率と営業利益率の言い間違い。数値のラベル付けをAIに任せた当社の公開デモでも実際に起きた型で、いまは単位と比率の名前をプログラム側で確定してからAIに渡す作りに直しています。

改正

最新の改正を知らない

学習時点より後の改正は、Web検索を併用しない限り出てきません。併用しても取りこぼすので、「いつ時点の情報か」を毎回確かめます。

出典

存在しない出典を作る

それらしい書名・判例・URLを組み立てます。出典は「あるか」から確かめます。

だから、AIの使い方より先に要るのは、会計の判断ができて、AIの出力を検証できる人です。当社はその人を、会社の中に増やすことを教育の目的にしています。

会計AI人材を育てる — 企業内研修と公開教材について。

使い方の研修は、貴社の書類で。

一般論の講義ではなく、貴社の管理部の書類を一本選び、AIで下書きし、どこを直すかを一緒に見ます。社名を伏せたままでも、ご相談いただけます。営業電話はしない方針です。

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初回の30分は無料です。2回目以降のご相談は、顧問契約の中で承ります。

監査などで関わっている会社と重ならないか、面談の冒頭で確認します。重なりがある場合はお受けできません。