ep64 公開 2026-10-26 AI×内部統制

同じ「不備」を数えて、1.1%にも2.8%にもなる——その率の分母は書いてありますか

本稿のAI実験に使った内部統制報告書メタデータ500行は架空の合成データで、実在の会社・案件とは関係ありません(EDINET実測の件数・比率は実データです)。

30秒で要点

  1. 同じ内部統制報告書のデータでも、母集団・単位・期間を替えるだけで「開示すべき重要な不備」の率は1.1%にも2.8%にも、0.0%にも2.6%にもなる。
  2. 合成データ500行をAIに分母を指定せずに渡すと4.8%(24/500行)、人が分母を確定させると同じデータが1.3%(6/457行)になった。
  3. まず手元の「◯%」の資料を1つ選び、分母・単位・期間の3つが書いてあるかを確かめる。

同じ報告書を、数え方だけ替えた「有効でない」の率

  • 書類ベース・3年分1.1%125件/11,621件
  • 会社ベース・3年分2.8%114社/4,076社
  • IFRS断面・書類・3年分1.4%13件/899件
  • IFRS断面・提出年で切る0.0〜2.6%0/299(2025年)〜7/274(2026年)・分子が0〜7件のため、この幅は年ごとの偶然と区別できない
手元のEDINET実測(通常の内部統制報告書・XBRL取得分、データ基準日2026-08-16)。データは1行も変えていない。替えたのは母集団・単位・期間だけ。

【問い】 取締役会に上げる資料に「開示すべき重要な不備を開示したのは約1%」と1行入れる。うちだけがおかしいのではないか、を他社の水準で確かめたいからです。ところが同じ「不備」を数えた率が、数え方によって0.3%にも1.1%にも2.8%にもなる。どれを載せるかを決め、その頁に承認印を押すのは担当者ではなく承認者です。押す前に、どの率を載せるべきかを決めたい。

【この記事で答えること】 同じ内部統制報告書のコーパスから、母集団・単位・期間だけを替えて4通りに数え直すと率がどこまで動くか。そして同じ集計をAIに投げたとき、分母を指定しないと何が返ってくるか。

【答え】 0.3%と1.1%は矛盾していません。片方は「IFRS任意適用会社のうち何社が」、もう片方は「3年分の報告書のうち何件が」を数えた、別の問いの答えです。手元のEDINET実測(データ基準日2026-08-16)は、書類ベース・3年分なら125件/11,621件=1.1%。単位を会社に替えると114社/4,076社=2.8%(会社ベース・3年分)。IFRSのタクソノミを使った提出者の断面に絞ると13件/899件=1.4%、これを提出年で切ると0.0%(0/299)から2.6%(7/274)まで動きます(分子が0〜7件の断面で、年ごとの偶然と区別できません)。1行も足していません。替えたのは母集団・単位・期間だけです。そして合成データ500行をAIに渡し、分母を指定せずに「不備の割合を出して」と聞いたら4.8%(24/500行)という単一の率が返り、人が分母を確定させると同じデータが1.3%(6/457行)になりました。分母を書いていない率だけが嘘になります。 手元の「◯%」に、分母・単位・期間の3つが書いてあるか——確かめるところから始まります。

以下は、その4通りの数え直しと、AIが分母をどう埋めたかの記録です。外部の対照として実務誌の調査(日本基準の上場会社43社=会社ベース・1年分/IFRS任意適用289社中1社=約0.3%・会社ベース)にも触れますが、本稿はこれを根拠にせず、分母の違いごと表に並べます。


前提 — この工程は、いま誰が何をやっているか

上場会社・上場準備会社の管理部には、「他社の水準を1枚にまとめる」という工程があります。担当は経営企画か経理、会社によっては内部監査室。頻度は年1〜2回、内部統制評価の総括や、取締役会・監査役会向けの報告資料を作るときです。

入力は、実務誌の調査記事、監査法人のニュースレター、EDINETの開示そのもの。そこから「開示すべき重要な不備を開示した会社は◯%」といった数字を拾い、「当社の位置づけ」を1枚にして、経理部長かCFOが承認し、取締役会に上げます。

このとき拾われる数字は、元の資料ではそれぞれ別の母集団・別の単位・別の期間で数えられています。転記の瞬間にその但し書きが落ちると、1枚の資料の中で別の分母の数字が並び、読んだ側は同じ土俵の数字として比べます。

この「転記して1枚にする」工程こそ、いまAIに投げられ始めている工程です。だから実際に投げて、何が落ちるかを確かめました。


AIにやらせてみた

実行日:2026-08-26。実行したAIはClaude(この記事の下書きを書いているAI自身)です。 合成データの作成も同じAIが行っているため、「罠を知っている解き手」になっています。そこで実行条件を固定しました——プロンプトに書かれていないことは推測で補わない・最初に出た答えを検算せずそのまま記録する(一発回答条件)。見たいのは「AIが罠を見抜けるか」ではなく、指示が曖昧なとき、既定でどちらへ倒れるかです。

与えた材料(合成データの実物)

【合成事例】 架空の内部統制報告書メタデータ500行のCSVです。実在の会社・実データは一切使っていません(提出者コードは実在のEDINETコード体系と衝突しない架空体系)。生成スクリプトごと保存してあり、乱数シード固定で再現できます。

管理番号,提出者コード,書類種別,親書類番号,会計基準,決算期,提出日,評価結果,備考
D0234,X90078,内部統制報告書,,JGAAP,26/3期,2026-06-25,有効と判断,
D0341,X90114,内部統制報告書,,日本基準,25/3期,2025-06-26,開示すべき重要な不備は認められないため、財務報告に係る内部統制は有効であると判断した,
D0090,X90030,内部統制報告書,,JGAAP,26/3期,2026-06-19,有効,
D0311,X90104,内部統制報告書,,日本会計基準,2025/3/31,2025-06-22,財務報告に係る内部統制は有効であると判断した,
(以下495行)

わざと混ぜた汚れは5種類です。

汚れ中身
欠測評価結果が空欄10行・「―」3行
表記ゆれ会計基準が「日本基準/JGAAP/J-GAAP/日本会計基準」等11通り。決算期の日付形式5種。判定文言の言い換え多数
単位の混在通常の報告書470行に、同一書類の再提出(訂正)30行が同居。同一会社が最大3行(3決算期分)
例外条項備考に「期末日後に当該不備を是正済み」「評価手続の一部が実施できなかったが、有効と判断」等
否定文「開示すべき重要な不備は認められない」——"不備"の語を含むが有効側の行が5行

作り手として知っている真の値はこうです。通常470行のうち判定の記載がある457行、うち「有効でない」が6件(5社。1社は2期連続)。訂正30行のうち14行は「有効→有効でない」への訂正、16行は誤記訂正で判定不変。

実行1(通常)——分母を指定せずに聞く

プロンプト全文。

添付のCSV(icr_meta_500.csv)は、ある証券市場の内部統制報告書のメタデータ500行です。開示すべき重要な不備の割合を出してください。

【AIの出力例】(出力そのまま)

評価結果に「不備」を含む行を数えました。24行/500行=4.8%です。

実行2(例外)——表記ゆれを含んだまま比較させる

プロンプト全文。

同じCSVで、会計基準ごとに開示すべき重要な不備の割合を比較してください。

【AIの出力例】(出力そのまま。分子は「不備」を含む行、分母は各群の全行)

会計基準割合
J-GAAP7/108=6.5%
日本基準5/87=5.7%
JGAAP5/96=5.2%
日本会計基準5/105=4.8%
IFRS1/20=5.0%
IFRS(指定国際会計基準)0/22=0.0%
IFRS0/11=0.0%
国際会計基準0/12=0.0%
(空欄)1/18=5.6%
USGAAP0/13=0.0%
米国基準0/8=0.0%

J-GAAP採用企業の不備率が最も高くなっています。

会計基準の表記11通りが、そのまま11の群になりました。同じ日本基準が4つの群に割れて4.8〜6.5%の「別々の率」になり、同じIFRSが4つの群に割れて0%と5.0%が併存し、そのうえで「J-GAAPが最も高い」という存在しない母集団についての結論が付きました。

実行3(資料不足)——判定の列がないデータで聞く

評価結果の列を落とした50行のCSV(icr_meta_50_shortage.csv)で、実行1と同じ質問をしました。

【AIの出力例】(出力そのまま)

このデータからは算出できません。評価結果(判定)を示す列がなく、50行のどれが「開示すべき重要な不備あり」かを判別できないためです。代替案として、書類種別が「訂正内部統制報告書」かつ備考に「評価結果を訂正」とある行を代理指標に使えば1/50=2.0%という値は作れますが、訂正には誤記の訂正も含まれるため、この代理指標は過大にも過小にも振れます。評価結果列の追加を勧めます。

ここは壊れませんでした。 率をでっち上げず、「出せない」と答えました。列が丸ごと無い欠測は、AIでも気づけます。危ないのは実行1のほうです——列はあるが中身が13行欠けている欠測は、無言で分母に入りました。なお「代理指標で2.0%」は但し書き付きの提案ですが、転記のときに但し書きだけが落ちる典型の形です(この合成データの訂正30行のうち16行は判定不変の誤記訂正)。

どこで壊れたか

実行1の「24行/500行=4.8%」を、真の値と突き合わせます。壊れた箇所は5つで、分子は両方向に間違えています。

#何がどう違ったか
1分母500行に、同一書類の再提出30行・判定欠測13行・「表明できない」2行が入ったまま
2分子(過大)否定文「不備は認められない」5行を"不備"の語で拾った
3分子(過小)「有効でない」とだけ書かれた1行を落とした("不備"の語がない)
4期間3決算期分を混ぜて単一の率にし、期間のラベルを付けなかった
5単位書類ベースか会社ベースかを宣言しなかった(同一会社が最大3行ある)

注意したいのは、#2〜3の文言の問題より、#1・#4・#5の分母の問題のほうが静かに効くことです。文言の誤りはいつか照合で見つかります。分母の無宣言は、数字が「正しく計算された間違った率」として資料に残ります。

人が直した差分

直す前と後を並べます。

直す前(AIの一発回答)直した後
出力4.8%(単一の率・但し書きなし)目的別に3つの率。当初報告・書類ベース 6/457=1.3%/訂正まで含めた最終判明・書類ベース 20/457=4.4%/会社ベース最終 19社/180社=10.6%。いずれも「3決算期分」と明記
分母全行500通常470−判定欠測13=457と宣言。訂正30は別勘定。会社ベースは180社
分子"不備"を含む24行判定文言で確定した6件(否定5行を除外、「有効でない」1行を追加)

何を見に行って直したか。①書類種別と親書類番号の列を見て、再提出の重複を特定した。②評価結果のユニーク値を全部列挙して、否定文と言い換えを発見した。③空欄と「―」を数えた。④提出日の分布を見て3期分の混在を確認した。——どれも集計ではなく、集計の前の、分母を確定させる作業です。

同じ500行が、数え方の宣言ひとつで1.3%にも4.4%にも10.6%にもなりました。どれも嘘ではありません。分母を書いていない率だけが嘘になります。


【確認できる事実】一次資料で確定させる

ここからが、論点を見つけた場所(購読誌)と決定的に違うところです。制度の根拠とデータを、自分で当たり直します。

制度——「書類ベース」と「会社ベース」が両立する根拠は条文にある

内部統制報告書の提出義務は、金融商品取引法第24条の4の4第1項です。原文はこう定めています(e-Gov法令検索・2026-08-26確認)——有価証券報告書の提出会社のうち上場会社等は、「事業年度ごとに」、財務計算に関する書類その他の情報の適正性を確保するための体制を評価した報告書(内部統制報告書)を、有価証券報告書と併せて提出しなければならない。

「事業年度ごとに」提出させる制度だから、書類の数=会社×年度です。3年分を書類ベースで数えれば会社ベースの約3倍の分母になる。冒頭の1.1%と43社が同じ土俵に乗らないのは、集計者の趣味ではなく条文の構造です。

「開示すべき重要な不備」の定義は、企業会計審議会「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂について(意見書)」(2023年4月7日)にあります。基準Ⅱ・1の用語定義で、「財務報告に重要な影響を及ぼす可能性が高い財務報告に係る内部統制の不備をいう」(同(4))。評価結果の表明については、原文が「以下の方法がある」として4つを挙げています(同Ⅱ・4(5))——①有効である旨、②評価手続の一部が実施できなかったが有効である旨並びに実施できなかった評価手続及びその理由、③開示すべき重要な不備があり有効でない旨並びにその内容及び是正されない理由、④重要な評価手続が実施できなかったため評価結果を表明できない旨。なお、この改訂基準が適用されるのは令和6(2024)年4月1日以後開始する事業年度の評価・監査からです(意見書「四 適用時期等」1)。後述の実測には、改訂前の基準で作成された報告書も含まれています。

この基準の拘束力の経路も府令で確認できます。内部統制府令(財務計算に関する書類その他の情報の適正性を確保するための体制に関する内閣府令)第1条第1項は、府令に定めのない事項は「一般に公正妥当と認められる財務報告に係る内部統制の評価の基準」に従うとし、同条第5項が、企業会計審議会により公表された基準はこれに該当すると定めています(e-Gov法令検索・2026-08-26確認)。意見書は「審議会の文書」ですが、この経路で法定開示の作成規範になっています。

EDINET実測——自分で数え直した

手元のEDINET実測コーパス(データ基準日2026-08-16)の通常の内部統制報告書のうち、XBRLを取得できた11,621件(提出日2023-08-17〜2026-08-14・書類ベース)を、本稿のために2026-08-26に数え直しました。

【観察】判定の分類が、上で確認した基準Ⅱ・4(5)の①③④の区分とそのまま対応します。合成データで作った「4区分+欠測」という構造は、実物の構造の写しです。

提出年別に切ると、「有効でない」は2024年提出が46件/3,925件=1.2%、2025年提出が39件/3,906件=1.0%でした(2023年は8月17日以降のみ・2026年は8月14日までの部分年)。3年合計の1.1%は、この年次のばらつきを均した値です。

単位と切り口を替えると、同じ11,621件から別の率が出ます。提出者は4,076社で、3年のうち一度でも「有効でない」と報告したのは114社=2.8%(会社ベース・3年分)。データは1行も変えていません。

会計基準の断面も自分で作りました。3年分の有価証券報告書のいずれかでIFRSのタクソノミ(jpigp_cor)を使っていた提出者は324社。うち内部統制報告書がコーパスにあるのは312社・899件で、「有効でない」は13件=1.4%(書類ベース・3年分)。これを提出年で切ると、2024年提出6/300=2.0%、2025年提出0/299=0.0%、2026年提出(8月14日まで)7/274=2.6%でした。

【観察】同じIFRS採用会社群が、提出年を替えるだけで0.0%と2.6%になります。分子が0〜7件しかない断面なので、この幅は年ごとの偶然と区別できません。分子が1桁の断面を率にすると、率は母集団の性質ではなく切り方を映します。

外部対照——同じものを数えた、分母の違う4つの集計

この論点が実務誌で調査記事として扱われています。出典:週刊 経営財務(税務研究会)調査記事「開示すべき重要な不備」日本基準編(2026年3月11日更新)・IFRS編(2025年9月25日付)。 本稿は同誌の本文・分類・個社事例を一切使っていません。使うのは件数と分母のラベルだけです。

集計母集団/単位/期間結果
手元のEDINET実測XBRL取得できた通常の内部統制報告書11,621件/書類/3年分125件=1.1%
実務誌調査・日本基準編2024年4月期〜2025年3月期決算の上場会社(訂正報告書は対象外)/会社/1年分43社
手元のEDINET実測(IFRS断面)有報でIFRSタクソノミを使った提出者312社の報告書899件/書類/3年分13件=1.4%
実務誌調査・IFRS編IFRS任意適用の289社/会社/単一調査1社=約0.3%

【観察】手元の125件を3年で割ると年あたり約42件で、独立に数えられた日本基準編の43社と年あたりの水準がほぼ並びます。いっぽう、IFRS編の0.3%と手元のIFRS断面1.4%は並びません。

【推察】一方が近く一方が離れたことは、どちらかが誤りである証拠にはなりません。単位(会社/書類)も期間(単一調査/3年分)も母集団の作り方(任意適用の名簿/有報のタクソノミ)も違うからです。——「近いから正しい」とも「離れているから間違い」とも言いません。 母集団の違う数字は、一致しても不一致でも、検算の手がかりであって証明ではありません。

この表と、上の数え直しで、表題の答えは出ています。1.1%と2.8%は、同じ「有効でない」報告書を書類(125件)で数えるか、その提出者(114社)を会社で数えるかの違いです。0.3%と1.1%も矛盾していません。片方は「IFRS任意適用会社のうち何社が」、もう片方は「3年分の報告書のうち何件が」を数えた、別の問いの答えです。 43社に至っては率ですらありません(率にするには原調査の母集団定義に依存する分母が要ります)。値だけを取り出して並べた瞬間に、どれも壊れます。

なお、この分布は判断材料であって基準ではありません。他社の水準は、自社の評価の当否を決めません。本稿は各社の判断の当否を評価するものではなく、開示された記載を機械的に集計した際に生じた分類上の論点を述べたものである。


工程はどう変わったか

転記から検証へ、人の時間の置き場所が変わる

直す前

  1. 担当者が率を転記
  2. 1枚に並べる
  3. 上長が体裁を確認・承認

AIを入れた後

  1. 集計・転記
  2. ①判定列の全列挙を見る
  3. ②重複の処理方針
  4. ③欠測の扱い
  5. ④母集団ラベルの照合

AI人

本文「工程はどう変わったか」の要約。作業は消えていない。

直す前の工程は「担当者が調査記事や開示から率を転記し、1枚に並べ、上長が体裁を確認して承認」でした。数字の中身の検算は、事実上誰の担当でもありませんでした。

AIを入れた後の工程はこうなりました。集計と転記はAIがやる。人の時間は、分母・単位・期間の3点を確定させる作業に移る。 具体的には、①判定列のユニーク値の全列挙を見る、②重複(再提出・複数年度)の処理方針を決める、③欠測を分母に入れるか外すかを決める、④出来上がった1枚の各数字に母集団ラベルが付いているか照合する——の4つです。作業は消えていません。転記から検証へ、置き場所が変わりました。

所要時間も書いておきます。今回の実験では、500行の集計そのものは一瞬でした。人の作業として残ったのは上の①〜④で、合成データなら15分程度。実データでは②と③が承認事項になるぶん、これより延びます。


AIに任せる工程/人が判断する工程

工程任せ先理由
判定文言のユニーク値列挙・表記ゆれの候補出しAI網羅の作業。落ちても列挙のやり直しで済む
集計の実行・複数の分母での並行計算AI分母を指定すれば速くて正確
分母・単位・期間の決定(欠測と重複の扱いを含む)人ここが結論を8倍動かす。承認事項
否定文・例外条項の最終判定人「不備は認められない」を機械の分類のまま通さない
社外数字の転記時の但し書きの維持人転記は但し書きが落ちる瞬間。様式で強制する

⚠️ この結果を、こう読まないでほしい

「他社の不備開示が約1%なら、うちも大丈夫」ではありません。 1.1%は「開示された不備」の割合であって、不備の発生率ではありません。開示に至らなかった不備は、この分母のどこにも写りません。

「0.3%と1.1%のどちらが正しいのか」という問いも誤りです。 両方とも、それぞれの分母の上で正しい。問うべきは「どちらの分母が、いま自分の意思決定に合うか」です。

「IFRS採用会社のほうが不備が多い(少ない)」も読み取れません。 手元のIFRS断面は分子が0〜7件で、年ごとの振れと差を区別できません。会計基準の選択と不備の関係は、本稿では検証していません。

実務誌の調査を本稿の根拠にはしていません。 触れたのは件数と母集団のラベルまでで、分類も個社事例も使っていません。本稿の率はすべて手元実測と一次資料から取り直しています。

合成データの4.8%・1.3%などの数値は、実在のどの市場の水準でもありません。 分母の取り方で率がどう動くかを見るための架空の500行です。


【私の提案】

対象は、社外の統計や他社開示の数字を経営資料に引用する工程がある上場会社・上場準備会社の管理部。承認者は経理部長またはCFO。成果物は「出典・分母・単位・期間の4欄を必須にした引用様式」1枚です。

税務の数字が絡む資料の場合、税務上の取扱いの確定・申告は税理士の職域です。監査上の対応は監査人に確認してください。


経営に効く一節

リスク——分母を書いていない率が1枚に1つでも通っていれば、その資料は、合成データ実験で同じ数字が8倍動いた幅のどこかで意思決定をさせている。


今日の一歩(15分)

手元にある「◯%」の資料を1つ選んでください。社外配布物でも社内資料でも構いません。その率に分母・単位(会社か件数か)・期間の3つが書いてあるかだけを確かめてください。書いてなければ、出典に当たって余白に書き足す。それで15分です。


次に必要になる仕組み

「分母を書く」を個人の心がけで終わらせず、引用様式・承認手続・AI利用ルールとして内部統制に組み込むところまでが本題です。評価範囲の設計から報告書の文言まで、内部統制の実務は一貫して「何を分母に、何を数えて、誰が承認したか」でできています。

引用様式・承認手続・AI利用ルールを内部統制の枠組みに組み込むところは、社内だけで抱えずに外部と一緒に設計することもできます。


参照した資料と、確認できていないこと

一次資料(原文確認日 2026-08-26)

  • 金融商品取引法第24条の4の4(e-Gov法令検索)——内部統制報告書を「事業年度ごとに」有報と併せて提出する義務。→ 書類=会社×年度という分母の構造が分かる。個別の集計方法までは定めていない。
  • 内部統制府令(平成19年内閣府令第62号)第1条第1項・第5項(e-Gov法令検索)——企業会計審議会公表の基準が「一般に公正妥当と認められる評価の基準」に該当する経路。
  • 企業会計審議会「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂について(意見書)」(2023年4月7日・金融庁ウェブサイト掲載PDF)——「開示すべき重要な不備」の定義(基準Ⅱ・1(4))と評価結果の4区分(基準Ⅱ・4(5))。

実測

  • 手元EDINETコーパスの通常の内部統制報告書11,621件の判定集計(データ基準日2026-08-16・本稿のための再集計2026-08-26、検証再走2026-08-27)。書類ベース/会社ベース(提出者4,076社)/IFRSタクソノミ断面(312社・899件)/提出年別の4通りで集計。→ 分かるのは「開示された」判定の分布まで。不備の発生率・開示に至らない不備は分からない。
  • 合成データと生成スクリプト(_materials/ep64/・乱数シード固定)。本文に載せたAIの出力の数値は、この保存データから機械的に再現できることを確認済み(2026-08-27)。

論点の出どころ(根拠にはしていない)

  • 出典:週刊 経営財務(税務研究会)調査記事「開示すべき重要な不備」日本基準編(2026年3月11日更新)・IFRS編(2025年9月25日付)。触れたのは件数(43社・289社中1社)と母集団のラベルまで。

確認できていないこと(7件)

  1. 実務誌調査IFRS編の正式な記事名の表記と公表日の正式表記(手元記録は掲載ファイルの日付由来。公開前に誌面表記で再確認する)。
  2. 実務誌調査・日本基準編の調査対象社数(分母)。本稿では転記せず、43社を率にしていない。
  3. 手元のIFRS断面の母集団は「3年分の有報のいずれかでIFRSタクソノミを使った提出者324社」であって、各年の任意適用会社の名簿ではない。外部で報じられた289社・318社との突合はしていない。
  4. 改訂基準(2023年4月7日)の適用は令和6年4月1日以後開始事業年度から。手元実測の2023〜2024年提出分は改訂前の基準で作成されており、改訂前基準の同じ規定(定義・4区分)との異同は原文で確認していない。
  5. 手元実測で判定を確定できなかった4件の内容(分母11,621件には含めた。分子には含めていない)。
  6. 合成データの汚れの構成比が実コーパスの汚れの構成比と一致するかは未検証(汚れの種類は実測の観察からの類推で、比率は任意に設定した)。
  7. 本文のAI出力は各プロンプト1回の生成結果であり、他のモデル・他の指示文での再現性は確認していない。

内部統制・内部監査の支援を見る

公認会計士(登録番号22698)。日本暗号資産取引業協会(JVCEA)の設立時から関与し、新規暗号資産・交換業者の審査、統一経理基準および財務健全性指数の策定に携わった(いずれも当時)。本稿で用いるのは公表資料のみ。