AIが一番助けたのは、入社したばかりの人だった
ある大手ソフトウェア会社のカスタマーサポートにAIを入れたとき、何が起きたか。スタンフォード大学とMITの研究者が、担当者5,172人のデータで調べました。
AIは、担当者が顧客とチャットしている間、返答の候補と、関係する社内資料へのリンクを画面に出します。
1時間に解決できた問い合わせの数は、平均で15%増えました。伸び方は人によって大きく違い、経験の浅い人ほど大きく伸びました。成績が下位2割の担当者では36%増えています。一方、経験の長いベテランでは、速さの伸びはわずかで、応対の質はむしろ少し下がっていました。
そして、いちばん目を引く結果がこれです。AIを使う入社2か月の担当者は、AIなしで6か月以上働いた担当者と同じくらいの成果を出していました。
顧客の側にも変化がありました。担当者への言葉づかいが丁寧になり、「責任者を出して」と求められる回数が減りました。離職も減り、減ったのは主に新人の離職でした。
なぜ新人ほど伸びたのか
研究者は、成績のよい担当者のやり方を、AIが新人に広めている可能性を指摘しています。
そうだとすれば、ベテランはもともとそのやり方を知っているので伸びが小さく、新人は、先輩が半年以上かけて身につけることに、入って間もないうちから触れられることになります。
伸びが最も大きかったのは、そこそこ珍しい種類の問い合わせでした。新人には経験が少ないけれど、AIには手本が十分にある、という種類です。
自社で試すなら
研究のAIと同じ仕組みでなくても、「できる人のやり方を新人に届ける」という考え方は借りられます。
- ベテランの頭の中を文字にする。 過去の問い合わせへの回答、手順書、社内規程。経理・管理部なら、取引先への回答例や、月次の締めの手順です。
- それを会社で契約したAIに読ませ、新人がまずAIに聞ける状態をつくる。 業務用AIの中には、社内の文書を読ませて答えさせる機能を持つものがあります。
- AIの答えが足りなかったところを、ベテランが直して文書に戻す。 直した答えが、次の新人の手がかりになります。
会計・監査の人へ
管理部は少人数で、1人が異動すると、手順ごと失われることがあります。AIは作業を速くする道具であると同時に、ベテランのやり方を次の人に渡す道具としても使えます。引き継ぎの計画に、AIを組み込んでみてください。
出典:Erik Brynjolfsson, Danielle Li, Lindsey R. Raymond「Generative AI at Work」The Quarterly Journal of Economics 140(2)(2025年5月)
公認会計士(登録番号22698)。日本暗号資産取引業協会(JVCEA)の設立時から関与し、新規暗号資産・交換業者の審査、統一経理基準および財務健全性指数の策定に携わった(いずれも当時)。本稿で用いるのは公表資料のみ。