2,000年前に焼けた巻物が、AIの力で最後まで読めた
西暦79年、ヴェスヴィオ火山が噴火し、ローマ時代の町ヘルクラネウムは高温の火砕流(熱いガスと火山灰の流れ)にのみこまれました。パピルス荘と呼ばれる邸宅の図書室にあった巻物は、その熱で炭のように黒く焼け固まりました。
18世紀に見つかったあと、開こうとする試みで多くの巻物が壊れました。いまも数百巻が、開けられないまま残っています。
2026年6月25日、ナポリ国立図書館で発表がありました。研究チームが、そのうちの1巻(PHerc. 1667)を、一度も開かずに、最初から最後まで読んだのです。読めたのは、ギリシャ語で約22列、長さにして約1.4メートル分の文章。倫理について書かれた哲学の本でした。
どうやって読んだのか
手順は3つです。
- 巻物を強力なX線で撮影し、中の立体画像をつくる
- 巻かれた面をコンピューターの中で1枚ずつはがし、平らに広げる
- 焼けた面に残るかすかなインクの跡を、AIに見つけさせる
3つ目がAIの仕事です。X線の画像の上では、インクの跡は人の目にはほとんど見えません。AIは、インクが乗った部分に残る、ひび割れのような細かい模様などを手がかりに、文字のある場所を浮かび上がらせました。浮かび上がった文字を読み解くのは、古代の文書を専門とする研究者です。
2024年2月には、この方法で最初のまとまった文章(2,000文字以上)を読んだ3人の学生に、賞金70万ドルが贈られています。そこから2年あまりで、1巻をまるごと読めるところまで来ました。
自社で試すなら
会社の中にも、「開けていない巻物」があります。キャビネットの契約書、スキャンしただけのPDF、過去の稟議書。量が多くて読み返せなかった文書を、まとめて読ませられるのも、AIの得意なことです。
- 対象を決める。 たとえば「いま有効な契約書すべて」。
- 会社で契約したAIに、決めた項目を抜き出させる。 契約期間、自動更新の有無、解約の予告期限、価格改定の条件など。最初は数十件で試し、抜き出しが正しいかを確かめてから全件に広げます。
- 抜き出した一覧を、人が原本と照らして確かめる。 抜き出すのはAI、確かめるのは人です。
会計・監査の人へ
上場会社など、企業会計基準で決算をする会社には、2027年4月1日以後に始まる事業年度から、新しいリース会計基準(企業会計基準第34号)が適用されます。借り手は原則としてすべてのリースを貸借対照表に載せるため、どの契約にリースが含まれているかを洗い出す必要があります。名前が「リース」でない契約、たとえば特定の倉庫や車両を実質的に自社の指図で使う業務委託契約の中に、リースが含まれていることもあります(特定の資産の使い方を自社が決められるか、などで判断します)。契約書を読んで候補を洗い出す作業は、AIに向いています。候補からリースかどうかを判断するのは人です。
出典:Vesuvius Challenge「An entire Herculaneum scroll has been read for the first time」(2026年6月25日)/同「2023 Grand Prize awarded」(2024年2月)/企業会計基準委員会 企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」(2024年9月13日)
公認会計士(登録番号22698)。日本暗号資産取引業協会(JVCEA)の設立時から関与し、新規暗号資産・交換業者の審査、統一経理基準および財務健全性指数の策定に携わった(いずれも当時)。本稿で用いるのは公表資料のみ。