tk05 公開 2026-11-01 つかいかた

AIに負けたあと、囲碁のプロの手は良くなった

2016年3月、囲碁AIの「AlphaGo」が、世界のトップ棋士の一人、イ・セドル九段に4勝1敗で勝ちました。囲碁で、人間のトップがAIに追い越された出来事として知られています。

その後、人間の囲碁はどうなったのか。香港城市大学やプリンストン大学などの研究者が、1950年から2021年までの71年間に、プロ棋士が打った580万手を調べました(2023年、米国科学アカデミー紀要)。

一手一手の良し悪しを、人間より強いAIで評価していくと、AIが人間を超えたころを境に、人間の打つ手の質がはっきり上がっていたことが分かりました。

何が変わったのか

変わったのは、人間が「新しい手」を打つようになったことです。

それまでの棋譜に一度も出てこなかった手を、研究者は「新しい手」と呼びました。AIが人間を超えたあと、新しい手を打つ回数が増え、新しい手が良い手と結びつくようになりました。

研究者は、AIの登場が、長く定石とされてきた打ち方から離れて新しい手を探すきっかけになった可能性がある、と考えています。

AIが人間の代わりに打ったわけではありません。打ったのは人間で、その手が新しくなり、良くなっていたのです。

自社で試すなら

仕事の案には、囲碁のような勝ち負けの物差しはありません。借りるのは「別の手を見せてもらう」という使い方です。

  1. 自分の案を先に書き、会社で契約したAIに別の案を3つ出させる。 決算説明の資料の構成、予算の前提、業務の流れの見直し案など。
  2. AIに、反対側から質問させる。 「この資料を読んだ監査人や取締役が聞きそうな質問を10個」。自分では思いつかなかった問いが見つかることがあります。
  3. 採るかどうかは、自分で決める。 棋士もAIの手を見て考え、最後は自分の手を打ちます。

会計・監査の人へ

内部統制の設計にも、業務の進め方や説明の仕方にも、長年の「型」があります。型は大切です。ただ、会計基準や社内規程の枠の中でも、型の外により良いやり方があるかもしれません。AIに別案と反論を出させるのは、判断を手放すことではなく、判断の前に見える選択肢を増やすことです。


出典:Minkyu Shin, Jin Kim, Bas van Opheusden, Thomas L. Griffiths「Superhuman artificial intelligence can improve human decision-making by increasing novelty」Proceedings of the National Academy of Sciences 120(12)(2023年)

どこまでAI?診断(3分・匿名)

公認会計士(登録番号22698)。日本暗号資産取引業協会(JVCEA)の設立時から関与し、新規暗号資産・交換業者の審査、統一経理基準および財務健全性指数の策定に携わった(いずれも当時)。本稿で用いるのは公表資料のみ。